平成14年11月26日の東京地裁民事第3部でこの訴訟についての初の司法判断が下され、「一時所得」であると判示された。この判決について学者や実務家などから様々な判例評釈がなされた。そのとき、学者の先生方の考え方の深さに驚いたことを覚えている。実務家がストック・オプションそのものを考え結論へ導く傾向があるのに対し、過去の給与所得の判例の流れも視野に入れて、この問題を考えていたからである。
その後、この税務訴訟についてなかなか考える機会に恵まれずにいたところ、上記のような納税者敗訴の判決が続々と下された次第である。今後、これら東京地裁判決から東京高裁判決までの動きについて研究し、発表していきたいと考える。そこで今回は東京高裁判決までの流れについて、結果論から思いつくことを述べることとする。
ストック・オプション税務訴訟を扱った論文を読んで、気になった点がある。それは、それらの論文の射程距離である。
- 自社のストック・オプションと親子会社間のストック・オプションの両方とも同様の論理展開が可能と考えるのか
- 平成13年の商法改正による新株予約権と本件訴訟をどのように区別しているのか
- ブラック=ショールズ等により算定可能なオプション価格に代表される付与時課税の適否など、立法時に遡った議論がどこまで必要なのか
平成10年度早期の導入を目指すとされていたストック・オプション制度は、政府の方針決定直後に一年前倒しされるかたちで、議員立法によって導入された。税制も後追いする形となり、議論が不十分なためにここにきて立法時に遡った議論を税務訴訟の場でしなければならなくなったのではないか、と思う。最近では二重利得法まで論じられている。さらに、これからのインセンティブ報酬を睨んだ議論についても、どこまでこの訴訟に持ち込むのであろうか。
ここでもう一度、訴訟の原点に立ち戻った議論はできないものであろうか。平成12年11月30日に、インテル前会長の西岡郁夫氏が北沢税務署を相手に東京地裁へ税務訴訟を提起した。讀賣新聞の平成13年5月17日付の朝刊によると、国税庁は「一部の納税者の申告漏れは、一線の税務署の誤った指導が原因だった」として、過少申告加算税と延滞税を取り消すことを決定したとある。その後、国税庁は同年6月22日付で「人為による異常な災害又は事故による延滞税の免除について(法令解釈通達)」と題する通達を発遣、ホームページ上で公開した。さらに、課税庁は平成14年9月に入り、「雑所得」という予備的主張を行ったのである。こうした事実が、一連の裁判の過程において裁判官の心象に与えた影響は小さくないと考える。
東京地裁判決から東京高裁判決に至るまでの過程は、果たしてどうだったのであろうか。上述した事実はすべて過去のものとして、議論の対象とはならなくなってしまったのだろうか。
所得税基本通達の解釈から始まり、給与所得の意義から「雇用契約類似の関係」にあるのかどうか、さらに、ストック・オプションを付与された子会社の役員等の勤務関係が「支配従属関係」や「指揮命令関係」にあるかどうかということを再考する必要があるように思う。判決の射程距離の問題から萎縮した判決が次々と下されることは、当初よりある程度予想はできた。しかし、実務家としては「まず課税処分ありき、理屈は後から…。」は断じて容認できないことである。
続く
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